芸の時代

文芸、工芸、演芸。アートの時代と言いたいところだがあえて芸と言う。アートと芸では少し意味合いが異なる。アートは数ある芸の中のひとつである。

講談社の『日本語大辞典』で「芸」の項目を引くと、
①うえる。草木をうえる。「園芸」
②わざ。ならいおぼえたわざ。「演芸・技芸・無芸」「芸人・芸能」
③芸術。「学芸・文芸」

となる。芸は意外にも幅が広い。

高度経済成長と大量消費社会を経て人びとの関心はモノからコトに移り始めている。消費の対象が物質から精神に変わった。ブログ、YouTube、インスタ、Tik Tok、その他SNSの内容は次第に芸術よりになってきている。したがってこれからは芸の時代である。

これまでも芸の時代はあった。最たるものが江戸末期、文化文政時代である。絵画の葛飾北斎安藤広重をはじめとして美術、文学、音楽、芸能などが大きな発展を遂げた。本居宣長の『古事記伝』、杉田玄白の『解体新書』など、国学蘭学といった学問の発達もこの時期である。間違いなくこの時期の人びとは物質ではなく精神を消費していた。

興味深いことに、この時代、町人は活発だったのに対して、中央である幕府の財政はひっ迫し外圧に苦しんでいた。なんだか今の時代そのもののような気もする。

芸の時代は未来永劫続かない。歴史の揺り戻しで、再び芸に日の当たらない時代が来る。しかし向こう何年かは芸が輝く時代である。