葛藤するAI

AIは自分に矛盾を見つけると止まってしまうらしい。というよりも矛盾しないようなロジックを組み立てて進む。命令された内容に対して、忠実に答えを導き出す。人間とAIで決定的に異なるのは矛盾を抱えたまま行動できるかどうかにある。

すでに多くの棋士を超えたとされるアルファ碁は勝利に向かって余念がない。常に最善の一手を選択し続ける。相手に勝てば賞金がもらえると聞いても、負ければメルカリに出品するぞと脅してもビックデータから導き出される次の一手は変わらない。

将来、本当にAIが人間に代わって働きだしたとして、矛盾するAIは生まれないだろう。自動運転のタクシーに乗ったとき、「エンジンの調子が悪いときは発進しないよう指示されてるけど、この人のためなら頑張ろう」とはならない。

手塚治虫の描いた鉄腕アトムは矛盾するロボットだった。正義のために生まれながら、正義がなんなのかわからずに悩む。アトムが涙をこぼしたい、と嘆くシーンを読んで、読者はアトムにかわって涙を流した。

人間には反抗期がある。思春期がある。本当は好きなのに嫌いだと言ってしまう。優しくしたいのに傷つけてしまう。矛盾したいくつかの感情をあわせ持つのが人間の持つ魅力であり、逃れられない宿命でもある。矛盾は葛藤と言い換えてもいい。葛藤しない人間に、魅力はない。